
水野博之は、常滑で代々窯業を営む家に生まれた六代目。
父は現在の常滑を代表する名匠のひとりとして知られる水野博司。
急須には常滑の土を主に配合し、作品により他産地の土を合わせ、ガス窯で焼成している。
その急須には、受け継いだこだわりを礎に、独自の感性が注ぎ込まれている。
急須の造形美と機能美は相反するものだが、これらの要素のバランスを重視し、しかも茶葉の動きを徹底的に研究した作りとなっている。
口を小さくすれば見た目は美しくなるが注ぎやすさを損ない、大きな蓋は茶葉を入れるのに適しているが外観としては必ずしも良くない。茶こしは出っ張らせることでお茶を抽出しやすくなるが、出っ張りすぎると洗いにくくなり、破損しやすくなる。また薄い急須は軽量である一方、安心感に欠ける。
持ち手は長いほど使いやすいが、長過ぎると形としての美しさを失い、破損のリスクも高まる。そこで極力短くしつつ先端に向かって広げることで、表面積を確保し、長い持ち手と同等の使いやすさを実現するとともに、美しいフォルムを生み出している。
ボディーはできる限り薄く成形しながらも、しっかりと焼き締めることで強度を保っている。
茶こしは、半球状に出っ張らせることで、注いだ際に下半分で茶葉を受け止め、上半分からお茶がスムーズに流れ出るようになっている。
茶こしの穴は急須本体に接する部分を最も大きくし、側面から離れるに従って徐々に小さくしている。さらに、茶こしと急須の接点部分の穴を半円形にすることで、最後の一滴まで流れ出やすくなり、一煎目と二煎目、また二煎目と三煎目の味わいの違いをより明確に楽しむことができる。
一般的には急須のパーツや茶こしはあらかじめ多めに作り置きし、それらを組み合わせるが、水野はボディーを成形した後、そのボディーに合わせた茶こしを一つずつ作る。
1979年生まれ。大学を卒業後、約二十年間サラリーマンとして働いていた。
世の中でペットボトルのお茶が普及し、急須を使う人が減っていくことに寂しさを感じるなか、三十代後半になる頃から「急須で淹れたおいしいお茶を味わってほしい」という思いが強くなっていく。やがて急須でお茶を提供する喫茶店の構想を抱くようになり、同時に急須そのものへの関心も深まっていった。幼い頃より父の仕事を間近に見て育ち、急須づくりをすると決めてからは父の作陶するのを見て覚え、ひたすら練習を重ねた。各地の陶芸作家からろくろを学ぶなど、少しずつ修業をしていく。
そして2022年、瀬戸市にある愛知県立名古屋高等技術専門校窯業校に一年間通い、窯業の基礎を学んだ。
2023年、満を持して常滑の工房一部をセルフリノベーションし日本茶カフェ「茶伝[CHADEN]」を開業する。急須はお茶を淹れるための道具であり、急須で淹れるお茶の魅力を伝えていきたいと営業をしている。自ら気になる茶農家さんからお話しを伺い、茶畑に足を運び「おいしい」と感じた煎茶を農家から直接仕入れ、店では父とともに手がけたこだわりの急須で提供している。
急須と煎茶の世界をより深く実感したいときは、水野博之の日本茶カフェ「茶伝[CHADEN]」を訪ねてみてもいいかもしれない
1979年 常滑に生まれる
2021年 会社を退職
2022年 愛知県立名古屋高等技術専門校窯業校に入学
2023年 窯業校を卒業後、父、水野博司のもと急須づくりをスタート
日本茶カフェ「茶伝[CHADEN]」を開業
2025年 東海伝統工芸展 入選
2025年 日本煎茶工芸展 入選
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