
作品に共通するのは、土の質感を存分に感じさせるものであるということ。
掘り起こされた土器のような“燻シリーズ”、光の加減によっては金属のようにも見えるマットな黒が特徴の黒鈍釉シリーズ。その他の技法においても表面をなめらかで人工的なものにせず、凹凸を残すこととで土の素材感を全面に活かした仕上げにしている。
「原料である土の素材感を、見る人や使う人にも感じてもらいたい。そこに置いてあるだけで様になり、また使用する際にはどういう風に使おうかと想像をふくらませるようなものができたらと思っています。」と若狹は語る
1978年広島県広島市に生まれる。母方の祖父は歯科医だったが、戦後、広島県の瀬戸内海の離島・江田島に移住し、島唯一の歯科医として勤めた。歯科医の仕事を通してセラミックに触れるうち陶芸に興味を持ち始めた。
あくまで趣味であったが、自分で窯を購入するほどの本格的なものであった。
広島市内で生活していた若狹は子供のころから祖父のところによく遊びに行っていたが、10代後半ごろには若狹自身も祖父を通して陶芸に触れ、だんだんと夢中になっていく。
高校を卒業後働きはじめてからは、本や雑誌、ネットなどで陶芸について貪欲に知識を得ながら、毎週末祖父のもとを訪ねては陶芸をする日々だった。陶芸に惹かれてはいたものの仕事にしようという決心がなかなか着かずにいた。
そんな中21才になった頃、祖父が倒れた。祖父のことが心配だったのはもちろんだが、週末に江田島に通うことができなくなり、土を触りたくてうずうずしている自分に気づいた。そのことで改めて陶芸に対する思いを確認し、陶芸を仕事にしていこうと決めた。
22歳から2年間奈良県の奈良芸術短期大学に通い、陶芸の基本を学んだ。短大を卒業してから、更に石川県のガラス学校で半年今度はガラスについて学んだ。
独学で得た知識の中で、ガラスと陶器には共通するものがあると知っていた。ガラスの質感を陶器作りに応用できないかという考えもあった。「陶器にはない質感を習いたかった。ガラスの表面の加工が陶器作りに役立つのではないかと思った。」実際、その後の若狹の代表技法となる黒鈍釉シリーズ、熔化化粧シリーズではその時のガラスの知識を存分に活かしたものだ。
ガラスを学んだ後、知人の紹介で同じ広島出身の巨匠、今井政之氏に弟子入りする。今井氏は“象嵌”という技法を面でパズルのようにはめ込むことに世界ではじめて成功させた作家だ。“象嵌”とは刻み込まれた模様に別の土を嵌めこんでいく技法で、それぞれの土の焼成時の収縮率を計算しないと隙間やひびができてしまうという緻密さが求められる技法。
住み込みの6年半にもわたる修行は多忙を極めた。今井氏は通常3、4人弟子がいることが多いのであるが、その時はたまたま若狹を含めて二人しかいない時期であったからだ。一方人が足りない分、土づくりから焼き上げまですべての工程を手伝うことができ、得るものが多かった。釉薬の調合、粘土の表現の仕方など、技術的な面はもちろん今井氏の作品に対するストイックなアプローチは若狹に大きな影響を与えた。
32歳で独立。工房は祖父の思い出がたくさん詰まった江田島の祖父の家に構えた。「陶芸をするのには必ずしもベストな場所ではないですが、陶芸へと導いてくれた祖父への思いもあり、工房はここに決めました。陶芸の環境が整っていないこの場所でとことんこもって挑戦しようと思いました。」
若狹の挑戦は続く。
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