大西忠左

信楽焼陶芸作家。

1990年信楽町指定無形文化財技術保持者の第一号に認定される(2004年に信楽町と甲賀市が合併したことにより現在は甲賀市指定無形文化財技術保持者)。

 

これまで個展は地元信楽町で一度きり。公募展もほとんど参加したことがないため全国的に名前を知られた存在ではないかもしれない。しかしながら、賞とは一線を画しながらただひたすら作陶に没頭してきた大西さんのその技術力、表現力は群を抜いており、日本を代表する急須作家の一人であることは間違えない。

 

作家人生においてなぜ急須に最も力を注いだのか、その理由について

“急須は最も難しい。急須をうまくつくる技術がないと、他のものも作れないからね” と語る。

形状、サイズ、焼成方法などその全てにわたって茶器の可能性を一途に追求。蓋はすっと本体に収まり、水切れ抜群、お茶を注ぐ道具として完璧な機能を備えているのはもちろんのこと、その芸術性の高さゆえにそこに置いておくだけで圧倒的な存在感がある。特に秀逸なのは薪窯作品の焼けのすばらしさと完成度の高さだ。

 

急須の焼成の仕方として、一般的には蓋は本体に被せたまま焼かれることが多いのであるが、これに対して忠左は蓋と本体それぞれの変化、変形を予測して別々に焼成する。こうすることで急須本体の蓋を受ける部分にもうつくしい景色を出すことができる。

 

“蓋の受けるところにも灰が流れて美しくないと銭にならないからなあ。それでいて少しの狂いもあったらあかん。失敗しないのは努力に対する神様からの報酬じゃのう”

と笑って語ってくれた。

 

 

1926年滋賀県甲賀市信楽町勅旨の農家に生まれる。

地元の小学校を卒業し、大阪の電気関係の会社に就職。

モーターのコイル巻きの仕事をしていたが、忠左が巻いたモーターは性能がよくコイルの形もきれいで長持ちするとお客さんの間で評判だった。戦争がはじまり特別幹部候補生・徴兵検査に合格するが三か月しても召集令状が来ない。結果的に終戦まで招集されることはなく、それは当時大変稀なことだった。後で分かったことだが、大西が仕事の腕がよく、部下の面倒見も良いので、いなくなったら会社が困ると上司が何回も延長願いを出していた、という。大西忠左の仕事ぶり、人柄を示すエピソードであろう。

 

戦後、信楽に戻り細々と機械ロクロのモーター巻替えの仕事を続けた。

21歳(1947年)の時、信楽勅旨の小物陶器の伝統が途絶えてしまうことを危惧した父の勧めで滋賀県立信楽窯業工補導所に通い、その後京都にある国立陶磁器試験所付属伝習所を修了する。もともと陶芸職人になる気はなかったが、2年間の製陶、釉彩、図案、彫刻等の作陶全般にかかわる充実した教育を受けたことで自然と陶磁器づくりが面白いと思うようになりこの世界に進むことを決意。

 

23歳(1949年)、小西源蔵氏に弟子入りして主にロクロを学ぶ。

27歳(1953年)独立

独立後は他の作家の登り窯を借りて作陶。その頃信楽では火鉢の生産が盛んであったため、10年間で約100もの焼成を経験。薪窯の知識と経験を深めることができた。大西忠左の薪窯のノウハウはこの経験が活きている。

その後も世界中の茶器を研究し、茶器のあらゆる可能性を探り続けた。

 

陶芸作家として60年以上活動。

信楽では知らない人がいない存在であり、その作品のほぼすべてが地元のファンに厚く支えられてきた。現在市場に流通する未使用の作品はほぼない。

201812月)現在92歳の大西が語った“失敗しないのは努力に対する神様からの報酬じゃのう”という言葉、ただひたすらに重ねられた努力の大きさを思い胸が熱くなる。


1926(大正15年)    滋賀県甲賀市信楽町勅旨に生まれる

1949(昭和24年)   商工省陶磁器試験所 伝習科 3940期修了

1951(昭和26年)   天皇陛下信楽に行幸、その際御前で「宝船七福神」の彫塑を実演。その後、勅旨天神神社に奉納)

1954(昭和29年)    独立 登り窯を築窯し、工房を構える

1976(昭和51年)    通商産業大臣認定 信楽焼伝統工芸士に認定される

                        信楽焼伝統工芸士会を結成し初代会長となる

1981(昭和56年)    天皇皇后両陛下びわこ国体開会式に行幸啓の際、御前で信楽焼ろくろ実演で壺を作る

                        陛下御所望の茶器を献上する

1990(平成2年)     信楽町(現甲賀市)指定無形文化財保持者に第一号として認定される

1995(平成7年)     「滋賀の工芸 伝統のやきもの」(滋賀県立近代美術館)

2000(平成12年)    「滋賀の焼きもの探訪 信楽焼-伝統の技」(滋賀県立陶芸の森 陶芸館)

2001(平成13年)    「大信楽展-焼締めの美への憧れとその軌跡」(滋賀県立陶芸の森 陶芸館)

2003(平成15年)    滋賀県文化賞を受賞

2005(平成17年)    「湖国を彩るやきもの-滋賀の陶芸家たち」(滋賀県立陶芸の森 陶芸館)

2010(平成22年)    地域文化功労者 文部科学大臣表彰

2012(平成24年)    「しがらき焼Ⅱ 大西忠左と勅旨の名工たち」(滋賀県立陶芸の森 陶芸館)

2015(平成27年)    紺綬褒章を受賞




大西忠左 (2010年撮影)
大西忠左(2010年撮影)
穴窯 (2010年撮影)
大西忠左 (2018年撮影)
大西忠左 (2018年撮影)
大西忠左 (2018年撮影)
大西忠左 (2018年撮影)
大西忠左 (2018年撮影)
大西忠左 (2018年撮影)
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